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京都地方裁判所 昭和47年(行ウ)143号 判決

京都市右京区西院高山寺町一番地

原告

株式会社水月

右代表者代表取締役

柏田すみ子

右訴訟代理人弁護士

前堀政幸

右同

村田敏行

右同

前堀克彦

京都市右京区西院上花田町一〇番地

被告

右京税務署長吉川陳幸

右指定代理人

細井淳久

右同

皆瀬武視

右同

山下功

右同

河口進

右同

川崎一

右同

大槻福治

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の、各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和四六年三月二九日付でした昭和四二年六月一九日から昭和四三年五月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認の取消処分を取消す。

2  被告が原告の昭和四二年六月一九日から昭和四三年五月三一日までと昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの各事業年度分の法人税につき、昭和四六年三月三一日付でした各更正処分および重加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

3  被告が原告の昭和四二年六月一九日から昭和四三年五月三一日までと昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの各事業年分の法人税につき、昭和四九年二月二一日付でした各更正処分および重加算税賦課決定処分がいずれも無効であることを確認する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

(本案前の答弁)

1 本件訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

(本案の答弁)

1 原告の訴え中被告が昭和四九年二月二一日付でした各更正処分および重加算税賦課決定処分がいずれも無効であることの確認を求める請求を棄却する。

2訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書地において寿司の製造販売業を営み、法人税の確定申告書を青色申告書により提出することにつき所轄税務署長の承認を受けていたものであるが、昭和四二年六月一九日から昭和四三年五月三一日までの事業年度(以下、昭和四二年事業年度という。)分の法人税につき所得金額を金一六七万九一七七円の欠損と確定申告し、昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの事業年度(以下、昭和四四年事業年度という。)分の法人税につき所得金額を〇円と確定申告したところ、被告は、昭和四六年三月二九日付で原告に対し、昭和四二年事業年度以降の青色申告書提出承認を取消す処分(以下、第一次取消処分という。)をしたうえ、同月三一日付で、原告の昭和四二年事業年度分の法人税につき、所得金額を金一四〇〇万四〇八二円、課税額を金五一一万九四〇〇円と更正する決定および重加算税金一五三万五七〇〇円の賦課決定処分、原告の昭和四四年事業年度分の法人税につき、所得金額を金二三六万一〇二〇円課税額を金六六万八九〇〇円と更正する決定および重加算税金四万四一〇〇円の賦課決定処分(以下、これらの更正決定および重加算税賦課決定処分を一括して第一次更正処分という。)をした。

2  原告は、昭和四六年五月三一日、右各処分について被告に異議の申立をしたところ、同年一〇月一二日付で棄却決定がなされ、さらに、同年一一月一三日国税不服審判所に対し審査請求をしたが、昭和四七年七月一九日付で棄却の裁決がなされ、同年八月一二日その裁決書謄本の送達を受けた。

3  第一次取消処分の通知書には、その取消の理由として、「営業用店舗を一部また貸し、当該権利金収入を除外したもの。法人税法一二七条一項一号の規定により帳簿書類の備付、記録および保存が大蔵省令で定めるところに従つていない。」と記載されているだけで、右また貸の態様、除外収入の金額、帳簿書類の備付等についての省令違反の内容等を明らかにする具体的な記載がなく、法人税法一二七条所定の理由が付記されているとはいえないから、第一次取消処分は違法であつて取消されるべきである。

さらに、原告には、右通知書に付記された取消理由に該当する事実が存在しないから、第一次取消処分はこの点からも違法である。

4  第一次更正処分の各通知書には、いずれも更正の理由が付記されていないが、前記のとおり第一次取消処分が違法で取消されるべきものである以上、第一次更正処分はいずれも青色申告書に係る更正処分としてその通知書に更正の理由を付記すべきものであるから、その理由付記を欠く第一次更正処分は違法であつて取消されるべきである。

さらに、第一次更正処分は、いずれも原告の所得金額を誤つて過大に認定したもので、実体的にも違法である。

5  被告は、昭和四九年二月二一日付で、原告の昭和四二年および昭和四四年各事業年度分の法人税につき昭和四六年三月三一日付でした第一次更正処分の各課税標準等および税額等がいずれも過大であつたとして、これを原告の当該各事業年度についての前記各確定申告額と同一額に減額する各更正決定をするとともにその重加算税額を差引〇円とする各賦課決定の変更決定処分(以下、これらの更正決定および重加算税賦課決定の変更決定を一括して第二次更正処分という。)をし、かつ同日付で第一次取消処分を取消す決定(以下、第二次取消処分という。)をした。

6  ところが、被告は、さらに、昭和四九年五月二七日付で原告に対し、昭和四三年六月一日から昭和四四年五月三一日までの事業年度(以下、昭和四三年事業年度という。)以降の青色申告書提出承認を取消す処分(以下、第三次取消処分という。)をしたうえ、同日付で、原告の昭和四三年および昭和四四年各事業年度分の各法人税について、当該各事業年度に係る原告の確定申告につき更正決定と加算税賦課決定処分(以下、これらの更正決定および加算税賦課決定処分を一括して第三次更正処分という。)をした。

7  しかし、被告が第三次更正処分において、原告の昭和四三年事業年度における店舗転貸の権利金収入として、確定申告に係る当該事業年度分の所得金額に加算すべきものと認定した金一四四七万円は、さきに第二次更正処分によつて更正された第一次更正処分において、被告が原告の昭和四二年事業年度における収入として確定申告に係る当該事業年度分の所得金額に加算すべきものと認定した権利金収入と全く同一のものであつて、第三次取消処分は原告が右収入を昭和四三年事業年度の帳簿書類に記載しなかつたことを理由としており、かつ原告の昭和四四年事業年度分の法人税についての第三次更正処分は、第三次取消処分がなされたことに伴つて行なわれたものである。すなわち、被告は、第一次更正処分において右権利金収入の帰属すべき事業年度の認定を誤つたとして、これを是正するため第二次および第三次更正処分をしたことが明らかであるところ、凡そ再更正は、税務署長が課税標準等または税額等が過大または過少であることを知つたときにのみなされるべきもの(国税通則法二六条)であるから、このような事由に属しない所得の帰属年度の誤りを是正する目的でなされた第二次更正処分は、無効であるというべきである。

仮にそうでないとしても、被告は、右所得の帰属年度の誤りを是正するため、一方では第二次更正処分によつて誤つた事業年度の課税標準等および税額等を確定申告どおりとし、他方では、第一次更正処分において認定した右所得を他の事業年度における所得として、その事業年度につき右所得を含む課税標準等および税額等を認定して第一次更正処分とは別個独立の新たな第三次更正処分をしたものであるが、被告が第一次更正処分を取消さないで右のような方法をとつたのは、第二次更正処分をすることによつて原告をして第一次更正処分の取消を求める訴えの利益を失なわせ、本件訴えにつき却下の判決を得て、訴訟を回避しようとする目的に出たものと認められ、これは更正権を濫用するものであつて、第二次更正処分は無効であるというべきである。

8  よつて、原告は、第一次取消処分と第一次更正処分の各取消を求めるとともに、第二次更正処分が無効であることの確認を求める。

二  被告の本案前の主張

被告が原告主張の第一次、第二次の各取消処分と各更正処分をした経緯は、原告主張のとおりであるところ、被告は第一次更正処分における各課税標準等および税額等がいずれも過大であることを知つて、これを原告の確定申告額と同一額に減額するとともにその重加算税額を差引〇円とする第二次更正処分をしたものであつて、これにより第一次更正処分は実質的に取消されたことになり、また第二次取消処分により第一次取消処分は既に存在しなくなつたのであるから、第一次取消処分と第一次更正処分の各取消を求める原告の請求は、いずれもその利益を欠くに至つたものというべきである。

また、第二次更正処分は、右のとおり原告の確定申告額をそのまま是認した処分であるから、原告においてその無効確認を求める利益はない。

よつて、原告の本訴各請求は、いずれも訴えの利益を欠くものであるから、却下されるべきである。

三  請求原因に対する被告の答弁と主張

1  原告主張の請求原因1および2の各事実は、いずれも認める。

2  同3の事実中、第一次取消処分の通知書に付記された取消理由の内容がほぼ原告主張のとおりであること(正確にはその前段の記載は、「法人税法一二七条一項三号に該当する(営業用店舗を一部また貸し、当該権利金収入を除外していたもの他)。とされている。)は認めるが、その余は争う。

3  同4の事実中、第一次更正処分の各通知書にいずれも更正の理由が付記されていないことは認めるが、その余は争う。

4  同5の事実は認める。

5  同7は争う。

原告が第二次更正処分の無効を主張する論拠は、いずれも誤つたものというべきである。すなわち、

被告は、第一次更正処分において、原告主張の権利金収入を昭和四二年事業年度の所得と認定して原告の同事業年度における課税標準等および税額等を決定したのであるが、その後の調査により右収入が同事業年度の所得でなかつたことを知り、その結果第一次更正処分において認定した原告の昭和四二年事業年度における課税標準等および税額等が過大であることが判明したので、さらに第二次更正処分によつてこれを更正したものであつて、右の第二次更正処分は国税通則法二六条、三二条二項の要件に適合した有効な処分である。

また、被告は、右のとおり、第一次更正処分において認定した原告の昭和四二年事業年度における課税標準等および税額等が過大であることを知つて、直ちに第二次更正処分をしており、これは、被告が自ら誤りを速やかに是正することによつて、本件訴訟における無用な本案の審理を不必要ならしめ、もつて諸々の空費と損害を避けるためにしたものであつて、ことに第二次更正処分は原告にとつて有利な処分であるから、まさに更正権を誠実に行使したものというべきである。

したがつて、第二次更正処分にはなんらの違法もない。

四  被告の本案前の主張に対する原告の反論

さきに請求原因7において述べたとおり、第二次更正処分は無効であるから、第一次更正処分は第二次更正処分によつてなんらの影響を受けることなく存在することになり、したがつて第一次更正処分の取消を求める利益も失なわれていない。

第三証拠関係

一  原告

甲第一号証の一、二、同第二ないし五号証を提出。

二  被告

甲第三ないし五号証の各成立を認め、同第一号証の一、二、同第二号証の各成立は不知。

理由

一  原告が昭和四二年および昭和四四年各事業年度分の法人税について確定申告をしたところ、被告が昭和四六年三月二九日付で第一次取消処分、同月三一日付で第一次更正処分をしたこと、そこで原告が所定の異議申立手続を経て国税不服審判所に審査請求をしたところ、昭和四七年七月一九日付で棄却の裁決がなされたこと、被告が昭和四九年二月二一日付で第二次取消処分と第二次更正処分をしたこと、および原告の右確定申告の右各処分の内容がいずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、第一次取消処分と第一次更正処分の各取消並びに第二次更正処分の無効確認を訴求する利益の有無について判断する。

1  第二次更正処分が第一次更正処分を再更正するものであることは、右当事者間に争いのない事実から明らかであるところ、一般に再更正は、当初の更正処分後の再調査によつて判明した結果に基づいて新たに課税標準等および税額等を決定する独立の行政処分であつて、単に当初の更正に部分的な修正を加えるための措置として行なわれるものではないから、再更正が行なわれるものではないから、再更正が行なわれることにより、さきに同一行政庁が行なつたこれと内容を異にする当初の更正は、当然に取消されて消滅するものと解すべきである。

ところで、当初の更正が再更正によつて当然取消されて消滅したというためには、右再更正が有効であることを前提とするのであるが、本訴においては、原告は、第二次更正処分は無効であると主張して争つているので、この点について判断する。

(一)  原告は、再更正は、税務署長が課税標準等または税額等が過大または過少であることを知つたときにのみなされるべきであつて、所得の帰属年度の誤りを是正する目的でなされた本件第二次更正処分は無効であると主張するが、法人税の課税標準は各事業年度の所得の金額であり、それに基づいて各事業年度の税額が算出されるのであつて、もし、ある事業年度の所得と認定された収入が、その後の調査の結果異なる事業年度の所得であると判明した場合は、前者の課税標準およびこれに基づく税額は当該事業年度において過大と評価されることになり、国税通則法二六条によつて再更正しなければならないこととなる。したがつて、この点に関する被告の処置には何らの過誤はなく、原告の主張は理由がない。

(二)  原告は、また、被告が第一次更正処分を取消すことなく、第二次更正処分をしたのは、原告をして第一次更正処分の取消を求める訴えの利益を失わせ、本件訴えについて却下の判決を得て訴訟を回避しようとする目的に出たもので、更正権の濫用であると主張するが、およそ税務署長において、調査の結果更正処分をした課税標準および税額が過大であると判明した以上、右処分の取消を求める訴訟の本案審理の結果を待つまでもなく、速やかに再更正すべきものであつて、そのことが納税者の利益にもなり、爾後における無用の紛争を避け、訴訟の審理も不要となるから、これをもつて権利の濫用ということはできず、本件においても全く同様であつて、ほかに特段の事情も認められないから、この点に関する原告の主張も理由がない。

そうだとすれば、第一次更正処分の取消を求める原告の請求は、その再更正たる第二次更正処分が行なわれたとき以降、その利益を失なつたものというべきである。

また、第二次取消処分が第一次取消処分を取消すことを内容とするものであることは、前記当事者間に争いのない事実から明らかであるから、第一次取消処分の取消を求める原告の請求もまた、第二次取消処分の行なわれたとき以降、その利益を失なつたものというべきである。

2  第二次更正処分が第一次更正処分における各課税標準等および税額等を原告の確定申告額と同一額に減額するとともにその重加算税額を差引〇円としたものであることは、当事者間に争いがない。

ところで、申告納税制度のもとにおいては、納付すべき税額は納税者のする申告によつて確定するのが原則であり、更正処分等による変更は、申告に係る税額が税務署長の調査したところと異なる場合等に、これを正当な税額に是正するため例外的に行なわれるにすぎないものであるから、更正処分によつて申告に係る税額が増加または減少しても、更正処分の効力はその限度において生ずるのみであつて、申告自体の効力をも失なわせるものではないと解される。したがつて、第二次更正処分が行なわれた結果、原告がその申告に係る税額と同額の税額を納付すべき義務を負うことになつたとしても、それは、原告が右税額について納付義務のあることを自認して行なつた申告自体に基づく効果であつて、第二次更正処分の効力に係るものではないのであるから、第二次更正処分は原告にとつて不利益な処分ということはできない。

三  よつて、原告の本訴訟各請求は、いずれもその利益を欠く不適法のものとして、却下を免れない。

四  そこで、訴訟費用の負担について判断するに、本件記録並びに本件各処分の内容と経過に関する前記当事者間に争いのない事実によると、原告は当初第一次取消処分と第一次更正処分の各取消を求めて本訴を提起し、当裁判所においてこれを審理中、被告が右各処分につき原告主張どおりの過誤があつたとして第二次取消処分と第二次更正処分をしたことにより、原告の右各取消請求はいずれもその利益を失なうに至つたこと、そこで原告は、さらに第二次更正処分の無効確認を追加的に訴求して本訴を維持したことが認められ、この事実に照らすと、被告が第二次取消処分と第二次更正処分をするまでの訴訟の程度において原告の右各取消の請求は理由があつたものと認めることができるから、このことを勘案して訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九〇条を適用し、本訴における訴訟費用を三分してその一を原告の、その余を被告の、各負担と定めるのが相当であると認められる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 谷村允裕 裁判官 永田誠一)

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